ローカル王子の、イロイロあった数週間はまだ終わらない。
●第4週
狩野さんからお電話をいただく
内容は、
・テレビ東京 土曜スペシャルの番宣を読むナレーターを探している
・本編は5月17日放送の『俳句の旅』 ナレーターは生野文治さん
・落ち着いた感じのサンプルをスグに送れますか?
というもの。
生野文治さんには、昨年の夏にオプションレッスンでご指導をいただきました。
そんな生野先生がナレーションを担当される番組のPRをさせていただけるなんて夢のようだ、なんて一瞬思ったのですが、現実には出先で電話を受けた王子、サンプルをスグに送ることは不可能でした。そこで、その事をお伝えし、一旦ケータイを折りたたみました。
このところの連敗で、すっかり勢いを失ってしまったローカル王子。全てが、こんなに上手くいかないものか・・・?
数分後、再び狩野さんからお電話をいただきました。
『決まったよ。ゴリ押ししといたから』
サラリとおっしゃった狩野さんに深く感謝しながらも、ホントにダイジョブなんですか?一応、声を聴いていただいたほうが良いのでないですか?と、逆に不安になってました。
でも、これこそアドバンスコースで学んだ“攻めの営業”なのだ。そのスゴさを垣間見た瞬間でした。
連敗のダメージは少し残っているケド、翌週の収録に向け気合が入るローカル王子は、“ドヨン”気分95%オフ(ダイエット・ドヨン)で週末を過ごす。
●第5週
黄金週間最終日
ローカル王子に出陣の時が来た。白馬は、この日も確かな足どりで王子を都へ運んだ。
収録スタジオは、日比谷線・神谷町駅より徒歩3分の好立地。
駅前のコンビニ前で狩野さんにお会いし、そのまま、師の影を踏まぬように気を付けながらの3分間ウォーキングで無事到着。
MAルームに入り、制作会社の皆様と名刺交換をさせていただき、ひとまず着席。ここからしばらくの間、極力ジャマにならないよう皆さんの会話に耳をかたむけておりました。
そして、ディレクターさんの『そろそろいきますか』の声でアナブースへ移動。
続いて、『一度、絵を流しますので見てください』との指示。
王子はモニターを前にして、「ほぅ、この大橋巨泉さんのコメント終わりで、せぇの ドン!と読み始めるんだなぁ」なんてイメージしながら、指示通りジックリと見ました。
そして、収録がスタート。
こんな感じかな、とローカル王子がテストで繰り出した読みに対してのディレクションは、『最後の一行を、あまり感情を入れずにサラッといきましょう』のみでした。
そこからは速い。もう凄いペースで進んでいく。
結局、アナブース内には10分もいなかったのではないでしょうか。
そして、編集作業を最後まで見届けてからスタジオを後にしました。
この後、狩野さんに駅前のカフェに連れて行っていただきました。
窓際のテーブルにつき、「今回も良い経験をさせていただきありがとうございました」と頭を下げるローカル王子に対し、狩野さんは静かに問いかけました。
『なぜ、もっと積極的に会話に入ってこなかったの?』
『なぜ、最初から無難な読みをしたの?』
王子は、スグに答えることができませんでした。
『あれでは何も印象が残らないよ』
午後3時過ぎ。周りには、ありふれたティータイムの光景が。でも、そのテーブルでは緊張感漂うアドバンスコースの補習が行われていた。
収録現場での王子は、「無事に終わりますように」ってコトだけを考えていた。まるで、付き合ってる彼女の父親に初めて会う時の男子のように。
思えば第1週のオーデションの時から、王子には“攻め”の姿勢がなかった。と言うより、攻める事を怖れていた。
そして次第に、シャベリ手としてのローカル王子を蝕む病魔の正体が明らかになってくるのでした。
続いて狩野先生は、これまでに見てきた「成功した人」と「消えた人」についてのお話をしてくださいました。
成功した人は、安定した立場や収入があっても、高い理想のためなら、それらをアッサリと投げ出すことができた。
消えた人は、安定した立場や収入があった時、それに甘んじて何も行動せず、それらを失ってから慌て出した。つまり、本来安定とは無縁の世界を選んだにもかかわらず、悪い意味での(凄い人もいるので)サラリーマンのようになっていた。
このお話を聴いた時、ローカル王子は「ハッ」とした。
その昔、王子はサラリーマンだった。
だが、その生き方に魅力を感じず、上司に「シャベリのプロを目指す」と告げて会社を去った。
それからこの世界に飛び込み、数年後には、本当にシャベリ一本での生活ができるようになりました。
でも、その段階である程度の満足感を覚えてしまい、そこからは冒険することより、立場や収入を守ることを優先するようになっていったのだと思います。
こうしていつの間にか、かつて「絶対になりたくない」と思ってたような人間になってしまっていた。
この現実・・・がく然としました。
しかし、知ることができて良かった。知らずにいたら、ただ嘆きながら消えていくだけでした。知ったからこそ、これからの生き方を自分で選択できるのだから。
ここで、アドバンスコースの補習は終了となりました。
ローカル落第生は、お忙しいなか貴重な時間を割いてご指導くださった狩野先生にお礼を申し上げ、重い体をひきずるように白馬のもとへ向かいました。
こうして、ローカル王子の前を“敗北の春”は通り過ぎていった。深い爪あとをのこして・・・・。
おわり