ナレーター松田佑貴,講師,スクールバーズ,ナレーション専門スクール,NHK,声優,

『学んだ技を新人がなぞっているだけでは勝てる訳なかった』
新人に来る仕事とベテランに来る仕事は全然違う。

”ナレーション・コーチ”
松田佑貴
『学んだ技が使えない!』


声のスタートは「一人の部屋」からだった


 

 
「声を出しても一人」。彼の「声人生」のスタートは、稽古場でもスタジオでもなく一人の部屋だった。よく耳にするがどこか他人事の感が否めない「ひきこもり」。思春期の若者にある日突然襲いかかるこの現象から抜け出すために、彼は『声で気持ちや考えを伝える方法』を真剣に見つめ、分析する必要があったという。
 

ナレーター松田佑貴,講師,スクールバーズ,ナレーション専門スクール,NHK,声優,
松田佑貴。34歳。現在はNHKを主にナレーションを展開する若手声優。一方で、スクールバーズでの講師活動を勢力的に繰り広げている。

 
『そんな僕の最優先は”生き抜くこと”なんです。だから仕事であれば全力でやるんです』 八面六臂の理由は、かつて部屋の中で感じた「葛藤」に、正面から立ち向かうことだ。
 
現在は徹底した「音程」のコントロールにより、若くして理論的なナレーションを構築しつつある。それはマツダ・メソッドとまで呼ばれる教育手法だ。
 
生徒たちの読みが、その場であっというまに変わっていく。それをなし得たのは「言葉を音節にまでわけて分解しメトロノームを使ってリズムを自覚させる」など徹底した技術教育。そこには新世代の『コーチ』像があった。
 
「ナレーション・コーチ」松田佑貴の”inside OUT”
 


「言葉」をもった宇宙人は、ほとんどのナレーションを引き受けるように!


 
10代の終わり。どうすれば自分の気持ちを本当に伝えることができるのか?悩み続けたあと、自室のドアを蹴破って有名声優の劇団の門をたたいた。
 
感情を表に出す術を演技に教わった。しかし人一倍の感受性をオープンにしてみると「楽しいことを伝えているはずなのに、なぜか怒っているように伝わっていたり」表現と自分との壁に苦闘する日々が続いた。やがて周囲からは感情が表に出ない”宇宙人”とあだ名されていた。
 
だが恩師は宇宙人の感性を評価してくれた。ひょんなことから恩師の紹介で仕事が舞い込む。それが評価され仕事を少しずつ積み上げていくことができた。そんな中で、大ヒットシリーズにも恵まれる。二枚目だらけの出演者陣の中で”宇宙人”が逆に目をひき、観客を湧かせたのだ。
 
がむしゃらに走った20代。仕事をこなす日々の中「ナレーション」と出会う。
 
『僕がまだ”宇宙人”だった時(笑)の悩みは、感情を表に出すことは出来ても、それをライターさんの意図通りに、誤解なくきちんと伝えられるか?だったんです。文意に関係なく気持ちだけで喋るので…どうしても「いわゆる声優っぽい読み」から抜けられなかった。せっかく訓練して感情を表に出しているのに、どうして伝わらないんだろう?感情を入れること自体は悪いことではないはずなのに?だからこそNGが出ても実感できずそこからの修正が難しかった』
 
『そんな時に「声優っぽいナレーション」から「ナレーター」にギアチェンジする過程で『まずフラットに読む感覚』を身につける重要性に気づいたんです。ようするに、いかに感情に流されずに読むかって事です。具体的には音程をコントロールすることで主語や述語の関係性を明確にする。意味をきちんと伝えて、そこに感情も乗せる。この2つがセットになって、ようやく「意味も感情も」伝わるようになったんです』
 
自らの「感性」をいったん破壊しまた再生させる作業。それをやりとげ、「新しい言葉」を手にした宇宙人は声優事務所の中で、ほとんどのナレーションを引き受けるまでになっていた!
 


「学んだことが現場で使えない!」


 
松田がこの時手に入れたのは、ナレーション業界で言う「アナウンス理論」だ。この理論は、いわゆるストレートナレーションと呼ばれる、読みの基礎となる技術
 
20代中盤。松田はストレートを磨くべく、様々なベテランナレーターに師事する。熱心に学び続けたことで、小さい仕事ではあったが「読める声優」になっていた。
 
そして30前。ようやく「新人のプロナレーターの端くれと自負し始めた頃」松田は現場で驚くような出来事に遭遇する。
 

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『学んだことが現場で使えない!んです。たとえば、長く教わってきたはずの「じっくりとした美しい読み」。下手は下手なりに学んだことを頑張って現場で披露するんですが、やはり評価がもらえないんですね(^_^;)そしてディクレターから一言「もうちょっと力抜いて楽に読んでもらえますか?」なんで??と思いました(笑)』

 
「形を追い求めて表現が追いつかない」状態。ずっと、自分が下手だからと思っていた。教わったことをやりきれていないんだと。でもそれは違った。
 
『テレビという日本全国を対象にした仕事をとるには、売れっ子から大ベテランまでそうそうたるメンツと横並びになって選ばれなきゃいけません。その時に「ベテランから学んだ技」を新人がただなぞっているだけでは勝てる訳なかった(笑)”自分の土俵”に持ち込まなきゃいけなかったんです』
 
”新人に来る仕事”と”ベテランに来る仕事”は全然違うもの。松田は、肌で思い知らされた。
 
『新人にすぎない僕が、大ベテランがやっているような、モノにするには数十年かかるであろう浄瑠璃や狂言などの古典芸能をモノマネして、簡単に形になる訳がなかったんですよ(笑)。だけど新人にだって、新人相応の”求められるもの”や”テクニック”があるはず。それを横において、正攻法だけで実践しようとしていたんです。
 
「いつまでも現場で評価されない」

「だから次の仕事がこない」

「その理由を技術不足と捉えてしまう」

「より良い技術のためベテランの技術をさらに追い求める」

「いつまでも仕事で評価されない」
という「新人が落ち入る魔のサイクル」に片足突っ込んでました。危なかった(笑)』
 
『でも、この”やってみないとわからないが、やってみてもなかなか出口が見えない”という辛い経験があって「新人なら新人なりの現場で『実際に役にたつこと』を追求しなければ」と思うようになったんです』
そう言って松田は、インタビュー中控えていたグラスを傾けた。
 


『こうするとこうなる』ってスタイル。僕は地味でもやってこられたから。


 
『”結果としてこうやってほしい”やり方は自由に任せます」というのが、プレーヤーの個性や表現を大切にした、オーソドックスな教育手法なんだと思います。でも僕は、方法論を教えて「”こうするとこんな表現効果が生まれますよ”」ってスタイルをとっているつもりです』
自らの経験をもとに、どうにかして生き残るため「なるべくディレクターの期待に応えられるプレイヤーでいること」を目指したいと松田は考えているからだ。
 
『たとえば個性がすごく強い読み手っていますよね。このタイプの読み手は、はまる時ははまるが、はまらない時も多くあるんです。あ、方向がずれてしまったと感じた時に、すぐに方向転換できるテクニックを学んで欲しい』
 
僕は、個性がないタイプだったから。
”宇宙人”とあだ名された男が言う。
 
『それでも僕は地味にコツコツやってこれたんです。その時役に立った「なるべく初見でとちらない」「アクセントは要求されたらすぐ変える」といったテクニックを教えることが、新人の役に立てる方法の一つなんじゃないかと。新人には自分にあった仕事なんてめったに来ないですから。”現場の要求にあわせていくテクニック”を積み重ねて、0.1%でも生き残れる可能性を増やしていきたいんです。それは自分が直面して来た課題でもあるから、それを生徒に伝えたい』
 
次の課題もある。
 
『僕の教育方針って、本当は「一度現場に入って”いかに現場をキープするか”」なのかもしれません。ストレートナレーションを軸に、一度NGが出た時すぐに切り口を変えて対応できるようにはどうしておくか?といったような。でも…本当のところはその前に「なんとかスキをついて現場に割り込む方法」が必要なんだろうと思っています。それが次の僕の課題としてありますね』
 


「その人が売れたからといって、自分が売れなくなることとは別問題」


ナレーター松田佑貴,講師,スクールバーズ,ナレーション専門スクール,NHK,声優,
レッスンには「自作」の何かを持ち込む。自分でタイムコードを入れた映像や、限られた時間でナレーター役や台詞のかけあいを効率よく学べる自作の原稿。時には手作りのキューランプまで持ち込んだ。
 
最後に気になる質問をぶつけてみた。
 
あなたが半生をかけて手にした読みの秘訣を簡単に教えていいのですか?
 
『「ひとはひと」です。秘訣を教えることは怖いことではあるけど「その人が売れたからといって、自分が売れなくなることとは別問題」と捉えていますから。というか、私が関わろうと関わるまいと、売れる人は売れる気がしますね』
 
若きナレーション・コーチはクールに、だが情熱的に「現実で生き残ること」をシビアに見つめている。
 
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この文章は2009年8月27日配信のナレーターメルマガを転載したものです。

 
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