第1話「養成所に入る」
この物語は声優からナレーターを目指す迷走の物語である、おおむね事実。
段落
声優養成所へ入る
「安定してない職業はダメ♡」と付き合ってるあかねちゃん。
逗子丸弘(ずしまるひろし)はあかねちゃんの言葉を疑うことなく、
ブラック不動産営業で5年。パワハラ当たり前、接待は強面のおじさまたちに軽く揉まれる。
日々のストレスを、せんべろ酒場でビールと共に流し込む日々。
(1000円でべろべろに酔えるような価格帯の酒場)
しかし!「やっぱりあなたとは先が見えないの、、、」の一言で突然あかねちゃんは去っていった。
パトラッシュ、僕もう、疲れたよ。。。魂が体から離れ、ネットをさまよっていた。
そんな時に目に止まったのがボイスサンプル。
声の豊かな表現に惹きつけられた。
なんとなーく、やってみたいなー。
でも自信もないしできるんだろうか?悶々
「そうだ声優養成所へ行こう!」
会社へ辞表をたたきつけ、門を叩いたのが、声優養成所【ラムチョップ】だった。
そこは厳しいことがネット雀の間で評判の新興の声優事務所。
これで右も左も分からない声の世界。遅すぎるスタートかも知れない。
箸にも棒にも引っかからないかも知れない。
いやもしかしたら、もしかするかもしれない。
その可能性にかけてみよう。逗子丸弘(ずしまるひろし)の胸がときめいた。
27歳の春だった。
養成所初日
レッスン場には15名ほどの生徒。ライバルでもある学友たち。
いや、共に鍛錬していく同士といってもいいかも知れない。
サラリーマンの戦闘服スーツで意気揚々とレッスン場に乗り込んだ。
明らかな場違いに気づくのに時間はかからなかった。
男性陣はスタジオの隅っこにいた。
軽いノリで前髪ばかり気にしている関西人くん。
ソフトモヒカンのメガネくん。
ニキビ顔の10代大学1年生くん。
純朴さ100%の純(北の国から)くん。地味目だ。。。
女性陣に目を移すと、、、
キャリーケースの影薄子に地味っ子メガネ、全身黒のドクロマーク。
中央に陣取るのは赤や黄、紫、ピンク。蛍光色のニーハイ女子連隊。
中央に陣取り「カワイイ」連発できゃっきゃとはしゃいでいる。
思わず「毒虫色」と言いかけたがやめておいた。
「わー友達になれるかなーー」いや友達作りに来てるんではないと思いなおす。
黒山椒(くろざんしょ)社長登場
レッスン初日ということで、今日は社長の挨拶があるらしい。
普段は音響監督がレッスンを担当していて、社長が来るのはとても珍しいことだと情報通の蛍光タイツのニーハイピンクが教えてくれる。
一同緊張が走る。
受験の時に見かけた、神経質そうなメガネの男性がやってきた。
開口一番
「この養成所で彼氏彼女を作って楽しい1年を過ごそうなんて考えてるヤツは、金は返すから今すぐ辞めて出て行けー!」黒山椒社長のヒステリックな怒号が飛ぶ。
(えーーーーーーーっ!!!なぜにそこ?)
脳裏にうっすら浮かぶあかねちゃんの面影を、必死で黒く塗りつぶす。
初回のレッスンが厳かに始まった
「おいそのスーツの下手くそ!そんな芝居で仕事が取れるかッ!」
「他の邪魔になるから帰っていい!」
容赦ない罵声が飛び交う。
ひとしきり怒鳴ると社長はそそくさと稽古場を後にした。
逗子丸弘の声優養成所初日はそうやって終わった。