第23話 優しさに包まれたなら、きっと(後編)

この物語はナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。


ピンク「ところで皆んなは何やってるの?」純くん「僕はワラワラ動画でボカロPを目指してたんですけど、やっぱり時代はV-tuberですからね。どうやったらその波に乗って行けるかなと、考え中かな」
逗子丸「それってまだ何もやってないってことだよね」毒が徐々にヒートアップ。
逗子丸「え?100?いやいや“地下アイドル”から“地下アイドル声優”って。。。随分深く潜ってるねー」
イエロー「ちょっとズッシー、どーるいでしょ?ズッシーも」」
逗子丸「売れてないけど。でも僕は、一応事務所に所属と言うか」
イエロー「所属じゃないでしょ、預かりでしょ!最近どんな仕事したっていうのよ!」

滑稽だ。滑稽すぎた。できれば自覚したくなかった。でも自分以外には明白な事実。自分自身も「夢見ちゃってるヤベー奴」だ。“自分は声優だ!”と強がってみても、実際のところ仕事がなければただのニートだ。ライバルだった安土はOAアニメに出てるというのに!昔はマウンティングするやつを軽蔑していたのに。ゲスな思い上がりで同期を見下し、同じようになってしまっていた、自分が情けなく恥ずかしい。

場の空気を察してかピンクが、話題を変えた。彼女はその後もエロゲ街道からは抜けきれず。しかしその界隈では名の知れたエロゲ声優として一定の地位を築き始めていた。

ピンク「そういえば安土はOAアニメレギュラーおめでとう!ニーハイレッドに次いで同期で2人目のOAデビューだもん。いいなー」

安土「現場はそれなりに楽しいんだけど。まああれやね」いつもはお調子者キャラだった安土は、どうしてか沈み込んでいるように見えた。
ピンク「別事務所に移ってからでしょ、すごいね!」

安土の成功は挫折から立ち上がったものだ。声優アイドルのグループは部持田(べじた)先輩が辞めて空中分解。事務所を飛び出し、そこから別事務所に移籍。持ち前の対人スキルを駆使してOAアニメのレギュラーをつかんだ。それは自ら道を切り開いたものだ。

すごいよ安土。でも悔しい。ピンクに褒められてるのもちょっとうらやましい。

ピンク「主役の荻窪さん(第19話)最近人気出てきてるよね。私もファンなんだ。どんな人なの?」
安土「めっちゃええ人。新人にも親切にしてくれてるし。でもあのレベルでもまだバイトしてるんだって」
逗子丸「そーなんだ!現実はキビシー」
安土「それもこれもあって、なんて言うか声優に夢が持てなくなってきてるかな。。。」
そこに店員が飲み物を運んできた。

店員「はいビールにハイボール、ピーチハイとキクラゲです」
それは部持田(べじた)先輩だった。(6,7,12,13,14,15話)

気付いたのか、気付かなかったのか、さっさと注文を置くと足早に去っていった。事務所ジプシーを繰り返していると噂だ。そこにイケメン・イケボな王子感はすでになかった。

逗子丸と安土は、目を見開いて見つめあったが、そのままずっと言葉は出なかった。向こうの席では、どうやらバイトしてるらしい影薄子が、純くんとイエローを相手にメイドカフェごっこに熱中し始めた。多幸感にあふれていた。

『ご主人様お帰りなさいませ!』『美味しくなーれ、萌え萌えキューン♡』

安土「ここにいたら、あかんのかなー」ぼつりとつぶやいた。

そのまま飲み会はお開きになった。
とぼとぼと歩く駅までの道。ピンクが耳打ちしてきた。
ピンク「ズッシーなんか元気ないね。近いうちにまた会おう。連絡するね♡」
逗子丸「(ズッキューン♡)え!会う会うー!」

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