第22話 優しさに包まれたなら、きっと(前編)

この物語はナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。


「声優を目指すのは、先の見えない戦いに参加することだと、分かって踏み入れたつもりだった。いや違う。見えないのは先だけじゃない。今も、いや今が見えない。うーんそれにしても、ニーハイピンクからのイタズラなKiss。あれはなんだったんだーーーー!」

枕を抱きしめながら昼も夜も悶々としていた逗子丸だった。

そんな頃、ラムチョップ養成所で因縁の相手だったニーハイイエロー(2,9話)からメールが来た。

イエロー「今度、ラムチョップ養成所の同窓会やらない?ズッシーに相談したいこともあるし♡同期も誘う?安土(あづち)やピンクなんかも。私は二人っきりでもいいんだけど♡♡」

逗子丸『(ピンク!)チロンモ!行く行くぅーー!しかし相談ってなんだろう?』

悶々からの変わり身は早かった。

養成所を脱落した彼らとなら、話せるかもしれない。いや、話したい。皆はどうしているのか、無性に会いたくなった。実のところ、それは自分より下の者を見て安心したいという、卑しい心だったのかもしれない。

集まったのはせんべろ居酒屋チェーン草草。昔ながらのせんべろ酒場に集まった。結局、同期数名、ニーハイイエロー、純くん(北の国から)、影薄子、と安土それにニーハイピンクが来ていた。売れっ子になっていたニーハイレッドは当然来ない。参照第9話 https://bit.ly/2seRjJX

ピンクの方を見るような見ないようなぎこちなさ。彼女は向かい側に座り、普段と変わらない様子でにこやかに座っていた。

そこに幹事でもあるイエローが隣に座ってきた。やけに体を寄せて来る。

イエロー「今日は何もかも吐き出しちゃいなよ。話、聞くよ♡(ムギュ)」

(ムギュって何?なんなんだこの展開。イエローといいピンクといいそういえば昔レッドも(第5話)。これが噂のモテ期ってヤツか!?)

逗子丸はとりあえずの発泡酒をグイッといって、キクラゲをつまむ。

センベロでのいつものように始まりは、その場にいない連中の噂からだ。

純くん「ニキビはまだ養成所ジプシーしてるよ。聞いたことないような所に通ってるらしい」

逗子丸「前の養成所に入る時に金貸したんだけど、帰ってこないんだよねー」

純くん「え!オレもこの前貸しちゃった!」

その場ではまだニキビの話題が続いていた。

純くん「それでさー、最近はネット掲示板で”声優養成卒だけど何か質問ある?”って志望者の相談に答えてるらしいよ(笑)」

逗子丸「痛タタターーッ!超ダサいなそれ!」コメントになぜだか毒が入っていく。

イエロー「いやっだー養成所のことなんてもう黒歴史扱いよ!」

話が盛り上がってきたところ。ピンクがこっちを見てないか気にしながら、隣のイエローに耳打ちした。

逗子丸「それで相談って何なの?」

上目使いに媚びた笑みを浮かべながらすっと封筒を渡された。

イエロー「実は…これなんだけど。お願い♡(ムギュ)」

まさか!と思ったがやっぱりだった。。。そこには芝居のチラシとチケットが。キャパ100名程度の場末の小劇場だ。

イエロー「皆んなにはもう買ってもらったけど、まだノルマ30枚の半分もいってなくて。ズッシーも買ってくれるよね♡(ムギュ)」

そう、イエローはこの道40年という超無名役者が演出する劇団の劇団員になっていたのだった。バイト先と養成所同期にチケット売ってもまだ半分。売れない劇団員あるあるを朗々と語りはじめた。

今日の集まりを企画したのはつ・ま.り

逗子丸「そーゆーことかっーーー!!」

イエロー「もう、やだ♡そーゆーこと♡」

やりとりを聞いていた影薄子が乗り出してきた。

影薄子「あ、あのー私も。芸歴になると思って出演したCDドラマなんだけど、ノルマがあって…1枚買ってくださーい♡」

(むーーん!ぶちぶちぶち!いつもより多めにキクラゲを食いちぎる)

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