第14話 「打ち上げの向こう側」

この物語はナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。


<青天の霹靂>


アダルトゲームの打ち上げに参加する逗子丸(ずしまる)
そこにビッグニュースが飛び込んだ!
アダルトゲーム、通称エロゲ「銀河痴女伝説ー巨砲一発!!」の打ち上げ会場、居酒屋《草草》。作家であるエロゲの神”ちぇりーぱんち”と音響監督。
そして女性声優たちの派手な嬌声と笑い声。
それを背にして男性声優たちはちびちびと酒を酌み交わしていた。
と、そこに!ニーハイピンクが高揚した顔で駆け込んできた。
ピンク「大変大変!なんか、この作品が18禁じゃなく一般作で作られることになったんだって!しかも大手ゲームメーカーでの大作になるらしいよ!」
一同「え!マジ!すげーメジャー作品だ!」
ピンク「いま作家さんがポロっと口にしてたんだよね。音響監督さんも知ってたみたい」
逗子丸「だからこの打ち上げが組まれたというわけですね!納得です!」
一同色めき立つ。ごく稀にだがそんな展開はあるとは聞いていた。
一度はエロゲということで、日陰でひっそりと思っていた。
それがメジャー化とは!ああ、その甘美なひびき。
そこから広がる妄想の誘惑には勝てなかった。
ゲームからのドラマCDにイベントにアニメ!キャラは帝国軍総統で実はヒロインの父。これ重要ポイントのダースベイダー的な役!マニアに長く愛される役どころ!ぐふふふふ。
一同もそれぞれの妄想に浸っていた。
声優X「メジャー化でもオレの役は残るよな準主役級だもんね」
声優Y「ストーリーは一緒だしそれぞれカラミがあるし、役は残るんじゃないかな。あ、カラミはそっちの意味じゃなくって」
声優Z「イベントまで行けたらいいなー。やっぱりメイン級だけかなー」
エロゲ声優はメジャー作品の夢を見ていた。


<希望その向こう側>


店員「はーい!ほっけでーす」
焼き魚なんて久しぶりだなー、と伸ばした逗子丸の手を先輩部持田(べじた)が叩く。
部持田「おい。なに喰おうとしてんだよ」
逗子丸「え?ほっけですが何か?」
部持田「ッタク。そんなことも知らねーのかよ、最近の新人は。」
逗子丸「あ!みなさん醤油かけます?それともレモンしぼります?」
部持田「ちげぇよ。・・・骨を抜け!」
逗子丸「はい??」
部持田「先輩方が食べ易いようにすんのが新人の礼儀だろうが!」
逗子丸「(聞いたことなーい!)で、では、、、」
部持田「あーあーっ。下手。ヘタクソ。代われ」
テキパキと魚の骨を外していく部持田。
部持田「前の養成所で魚の骨の外し方を叩き込まれてきたんだ。こういう席のために」
逗子丸「骨を外す練習って…声優って深いっすね…(闇が)」
部持田「店員さん。秋刀魚とアジの焼き追加!」
次々と魚の骨を外していく部持田。一心不乱のその目の奥には青い炎が宿っていた。ひとしきりして、焼き魚の骨を外し終わると、満面の笑みで作家と音響監督のところに持参しに行った。
ほどなくして打ち上げはお開きとなった。
男性声優陣はここぞとばかりに挨拶に並んだが。
逗子丸「先生!ご挨拶を帝国軍総統役のずし…」
作 家「うぃー。ヒック、あー…」随分とご機嫌である。
ピンク「やだーセンセー。酔っ払ってるんだからーうふふ」
やたらと鼻にかかる声だ。女性声優陣が嵐のように作家を連れ去って行った。
音響監督「ということでお疲れ様でしたー」
男性陣は極めてあっさりと一次会で返された。
音響監督「そーか!ピンクちゃん、帰りはセンセーと同じ方向なんだ。じゃあもう一軒行こうよ!センセーもね^^」
そういうと数名の女性声優が嬌声と共に夜の街に吸い込まれていった。
ゲームのメジャー化を夢見て。皆必死だったのだろうか。
メジャーゲームの収録が待ちきれなかった。
その間は夢をみていることが出来た。
やがて声優雑誌にゲームの広告が打たれた。
「銀河キューティ伝説ー彗星の一撃!!」さすがの大作。
キャスティングは男女の有名声優がずらりと並んでいた。
メインどころにはエロゲに出ていた連中はいなかった。
逗子丸『いやメインは有名どころで仕方がない。脇役の収録はまだなはずだ。まだ夢は終わらない』数ヶ月後ゲームは発売された。
結局、逗子丸にはお呼びがかからなかった。
噂では、エロゲに出ていた誰一人キャスティングされなかったようだ。
音響監督までも違っていたらしい。
『次回作でキャストが入れ替わるのは、声優界ではよくあること』声優仲間やマネージャーはそう言った。
その通り何度も自分に言い聞かせた。ただただ悔しい悲しい惨めで情けなく恥ずかしかった。幾度目だろうか。夢を見て裏切られたことは。
立て逗子丸!起き上がるんだ逗子丸ーーー!

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