第11話 「その名は”ラムチョッパーズ”」

この物語はナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。


<ラム・チョッパーズ誕生>


キラキラの声優アイドルとしてアフレコ現場にのぞんでいる。俺の声でみんなを魅了してやる。グッとくる演技をバッチコーンと決めるぜ!音響監督もやたらと丁重だ。黒山椒(くろざんしょ)社長もマネージャーの三年坂(さんねんざか)女史も満面の笑みで拍手をしている。主役って気持ちいいな。。。昨夜はめずらしく夢を見た。それは甘美ではかない夢だった。

今日は声優ユニットのレッスン日。朝から胃が重い。

メンバーはゴボウのように細い中性的な男子、マッチョなスポーツ系、売れっ子声優もどき、爽やか声の高身長。それにイケメン・イケボでそこはなとなく王子感があふれ出ている先輩の部持田(べじた)三郎の6名だった。

三年坂「重大発表があります!!」(一同ゴクリ)

「このユニットの名前が決まりました!声優”アイドル”ユニット【ラムチョッパーズ】」

(そのまんまやん…ちょ、ちょっと待って)微妙な空気が流れる。

「そしてその方向性はこれ!(3XLの衣装を広げる)ヒップホップユニットとしてB-BOYになってもらいます。一同懸命に練習するように!」

(一同激しく動揺。で、できんのか?そんな事口が裂けても言えないが…)

三年坂「ハイ!バンバンズババーン、ターン、ターン、ダウン!」

この日からレッスンはダンスが中心になった。指導する三年坂女史はマネージャーになる前は地下アイドルだったという噂だ。やたらとダボついた服で急仕立てのヒップホッパーが出来上がった。しかも踊りの締めはなぜか必ずこれだった。

三年坂「ハイ、そこでチューチュートレイン!タイミングずれてるよ!」

ヒップホップの基本である裏拍が全く取れない。安土は絶望的にリズム感がなかったのだ。他のメンバーも似たり寄ったりだ。

三年坂「安土!ちゃんと音楽を聞いて!耳腐ってるの!?」

全身がきしんで痛い。心もきしんで痛かった。

ダンスレッスンが一通り終わるとセリフの練習だ。その台本が。。。

「こんなとこにラーメン屋がある。入ってみよ。ガラガラガラ」

「いらっしゃいま・・・お客さん、店内でうがいはやめてもらえますか?」

「してへんわ。戸を開けるときのガラガラや!」

「失礼しました。何名様ですか?」

「一人」

「二階の宴会席ご案内します」

「なんの嫌がらせやねん!場所もてあますわ」

そう、まったくもってコント!なぜかテキストがお笑い台本なのである。いやしかし、ここは必死で喰らいつかないと。

三年坂「安土!!間とテンポを大切に!あぁ、もうせっかくの笑いが死んだじゃないの!」


<最初のお仕事は?>


声優ヒップホップコントアイドルユニット。。。どこに向かっているのか全くわからなかった。だがきっと何か狙いがあるんだと信じてすがるしかなかった。ただひたすらに、がむしゃらに。先の見えないレッスンは雨の日も、風の日も、台風の日も続けた。

そんなある日ついに、その時はやってきた。

三年坂「今日はついにラムチョッパーズのデビューのお仕事を用意したわ!」

一同「おーおおー!!!」歓喜の声がとどろく。

喜びと期待に一同思わず声があふれ出した。雨の日も、風の日も、台風の日もレッスンを続けてきた。アイドルユニットらしくきっと何か華々しいイベントみたいなことをやるに違いない。昨夜見た夢は正夢だったんだ!

三年坂「あんた達に最初にやってもらう仕事は着ボイス!」

これは当時流行っていた。声を携帯にダウンロードするものだ。タレントや芸人そして人気声優の声が大評判となっていた。

三年坂「あんた達にやってもらうのは【BL(ボーイズラブ)】よ!!配信コンテンツでBLボイスを乗っけて女子をキュンキュンさせちゃおって作戦よ。はぁと」

解説:【BL(ボーイズラブ)】とは、男性同士の恋愛を描く作品。コアな女性ファンに熱狂的に支持されている。売れっ子声優もやっている人が多い。今回の作品は18禁ではない。

三年坂「あ、そうそう一番人気がなかった子はバイバイだから頑張ってね」

一同「!?」

希望の風船は膨らみすぎて破裂した。一瞬期待した自分がバカだった。

女子のハートをキュンキュンしてる場合ではなく、胃の方がキュンキュン痛んだ。

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