第12話 「ボーイズラブ、そこに愛はあるのか!?」


この物語はナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。



<この胸の高鳴りは?>


声優ユニット「ラムチョッパーズ」に選抜された安土寿雄(あづちとしお)。初仕事は
男性同士の恋愛を描くBL(ボーイズラブ)だった。
「あ、そうそう一番人気がなかった子はバイバイだから頑張ってね!」
マネージャーの三年坂(さんねんざか)女史の声が頭から離れなかった。

この日の帰り道は空気が重かった。どうしたってどんよりしてしまう。やがてメンバーからため息にも似た言葉が想い想いに出てきた。
マッチョ「こんなんでずっとプレッシャーかけられるなら俺もうやめようかな…」
中性ゴボウ「え、どうしたの?そんな事言わずにみんなで頑張ろーよ!」

毎回罵声を浴びせられる恐怖、そしていつでも首を切られるというプレッシャー、メンタルはすでに限界だ。もういっその事スパッと首を切られて楽になってしまいたい。しかし、かすかな希望にすがって自分から辞めるとも言えないメンバーたちの想いがあった。

運命のデビューの日。養成所に入った頃はキラキラ輝くデビューを夢見ていた。だが現実は真逆だった。死刑宣告を受けるかもしれない現場への足取りはめっちゃ重い。
三年坂「おはよー、今日はラムチョッパーズ初のお仕事!張り切っていこうね!!」
この人はなぜこのテンションで接することができるのか?人格を疑った。

収録はスタジオではなく制作会社の簡易ブース。机にマイクが1本乗っかっていた。台本は2人で1組でセリフの掛け合いだ。
安土の配役は、「陸上部の先輩と後輩」の後輩役。先輩役は弱音を吐いていたスポーツ系のマッチョ君だ。しかし今日の彼の目はやる気でギラついていた。

安土  「先輩、もう卒業しちゃうんですね…」
マッチョ「ん?急にどうした?」
安土  「いや、なんだか、寂しいなと思って…」
マッチョ「ははは、可愛い事言うじゃないか。でも、楽しい思い出もいっぱいあっただろ?」
安土  「はい!それは、もちろん!」
マッチョ「例えば?」
安土  「え!?」
マッチョ「ほら、言ってみろよ」
安土  「えっと、そ、その、ごにょごにょ」
マッチョ「聞こえないぞ!」
安土  「ひゃぃぁっ!ち、近いです…ん!ちょ、ちょっと、んぁ!」
マッチョ「ほら、ちゃんと聞かせろよ。」
安土  「はぁ、せ、先輩、んぐっ、ちょっと、やめっ」
マッチョ「やめて欲しくないくせに。」
安土  「!?…はぁ…はぁ…ないで..ください」
マッチョ「ん?」
安土  「やめないでください!もっとして下さい!先輩いぃぃ!!!」

とにかく恥ずかしい!だが素になってしまったらもう戻ってこれない。とにかく何も考えないでやり切るのに必死だった。マッチョ君の迫真の演技にちょっとだけキュンとしたのは内緒。


<擬似ラジオ収録>


三年坂「ボーナストラックでフリートーク聞かせるから、今から収録ね、みんな仲良い所見せつけちゃって!はぁと。じゃあトーク担当、安土がまわしていってね」
安土「はい、どーも!ラムチョッパーズです!ウチらの声聞いてくれてありがとなー」
某何かをカウントダウンするテレビ番組のような感じで進める。

安土「へぇー、ゴボウ君そーなんやぁ。あっ、ベジタっちは最近なんかおもろい事あった?」
部持田「…別に」
安土「別にって、お前、どこの大物女優やねん!ベシッ!」
部持田「…」
(緊張してるんかなぁ、反応悪いなぁ)
フリートークの収録は無事に終わった。かに思えたが、、、

帰りの道中、部持田君が声を掛けてきた。
安土 「どうしたの?」
部持田(べじた)「どうしたの?じゃねーよ!さっきの何?俺先輩だよ!あの馴れ馴れしい態度なに?なめんてんの!?黒山椒社長に聞かれたら俺まで怒られるじゃねーか!!」
そう強烈に言い放ち去っていった。怒り、悔しさ、恐怖、虚しさ、感情が一気に渦巻いた。しかしその場では呆気にとられただけだった。
もしかしたら、部持田もオレと同じ気持ちだったのかもしれない。その想いが一挙に爆発したのかだとしたら。それが理解できてきたのは、もう少し後のことだった。

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